こんにちは♪
アクリル画家、絵画講師の初香です。
今回はアクリル絵の具の特徴を活かした描き方の「重ね塗り」の技法をお伝えしていきます。
私は大学で油絵を専攻して、長く油絵を描いてきました。
油絵は基本的に重ね塗りで描いていくので、重ね塗りが身に染み付いていて、重ね塗りでしか描けないくらいです。
重ね塗りには数えきれないほどの魅力的な効果があります。
一つ一つの技術は難しいものではないので、この記事を読んで試してみてもらいたいと思います。
アクリル絵の具の特徴
アクリル絵の具の大きな特徴は
- 水性で乾くと耐水性になる
- 透明色や半透明色、不透明色がある
- 速乾性
- いろいろな支持体に描くことができる
- 豊富な種類のメディウムがある
このような特徴がありますが、重ね塗りをするのには、1、2、3の特徴がとても有効に作用してくれます。
耐水性
水彩絵の具は、アクリル絵の具と違って、乾いても耐水性にならないため、乾いた後も水がつくと溶け出してきます。
そのため、重ね塗りをする時は、優しく手早く行わなければ下の色が溶けて、形がぼけてしまったり、色が混ざって濁ってしまったりします。
アクリル絵の具は乾くと耐水性になる ため、上から水をつけても溶け出してこないので、重ね塗りがとても簡単にできます。透明、半透明 不透明
アクリル絵の具は色によって透明色、半透明色、不透明色とあります。
アクリルガッシュの場合は全ての色が不透明なので、重ね塗りをすると 下に塗ってある色は塗りつぶされて見えなくなります。
その点、ガッシュは修正が容易にでき、ポスターなど平面的な塗り方が得意ですが、重ね塗りは意味が無く、使われません。
透明色や半透明色のある アクリル絵の具は下に塗った色が透けて見える ので、色を視覚的に混色したり、色に深みを出したり、いろんな調子を作ることができるので、重ね塗りがとても効果的です。
透明色、半透明色、不透明色の見分け方は、絵の具のチューブに表示があるので、簡単に見分けられます。
速乾性
油絵は基本的に重ね塗りで描いていくもの ですが、油絵の具は乾燥がとても遅く、薄いものでも1日、厚いものだと1ヶ月近く待たなくては乾かないこともあります。なので、何層にも重ねて描く油絵は乾かす時間も入れて、とても時間がかかるものです。
アクリル絵の具は速乾性で水彩絵の具とほぼ同じくらいの時間で乾燥するので、絵の具の厚みによりますが、数分から十数分で乾きます。
こんもり盛り上がるほどの厚みがあるとドライヤーは使えませんが、1ミリ以下程の厚さなら ドライヤーで乾かせる ので、どんどん重ねて塗ることができます。
厚い絵の具をドライヤーで乾かすとひび割れの原因になります。
この特徴を活かす
このように アクリル絵の具の特徴は重ね塗りにとても適した画材です。
自分の好きな様に重ね塗りをしても良いのですが、いくつか重ね塗りのやり方があります。
その技法を知れば、欲しい表現ができるようになるかも知れませんよ。
では、重ね塗りの技法を解説していきます。
水彩風の重ね塗り
アクリル絵の具は水彩風にも油絵風にも描ける画材です。
まずは 紙の白さを活かして描く水彩風の重ね塗り技法 から見ていきましょう。
ウェットオンドライ
ウェットオンドライは下に塗った色がしっかりと乾いた後に 透明色の色を重ねて塗る技法 です。
重なったところは視覚的に混色されて見えます。
上の例では分かりやすいように黄色と青をずらして塗りました。
色の重なったところは緑色に見えます。
青と黄色を混ぜた緑と、重ね塗りでできた緑ではニュアンスが違うので使い分けると良いと思います。
ブロックイン
ブロックインは モノトーンで描いておいた上から透明色を重ねて描く技法 です。
白い絵の具を使わないように、紙の白さを活かして明暗を描きます。
紙の白さを活かしてモノトーンで描く。
固有色を塗る。
色味の調整や細部の描き込みをして完成。
色と明暗を分けて考えて描けるので初心者でもリアルに描きやすい方法です。
油絵風の重ね塗り
次は油絵風の重ね塗りを見ていきましょう。
油絵は基本的には重ね塗りで描いていく画材です。
水彩画は紙の白さを活かして薄い色から段々と濃い色を塗っていきますが、油絵のアカデミックな描き方は真逆で、 暗い画面から明るい部分を描き起こしていく 描き方です。
有色下地(インプリマトゥーラ)
有色下地は 画面にあらかじめ色をつけておく技法です。
下地と名前につきますが、キャンバスやパネルに最初に施す下地剤のことではありません。
下地剤がすでに施されている上に色を塗ります。色付きのジェッソも市販されているので、下地と有色下地と一度にできるものもあります。
1塗り残しがなくなくなる
2統一感がでる
3明暗や光影の調子が出しやすくなる
4上から塗る色を効果的に見せる
5対比によってイメージをつくる
塗り残しがなくなる
白い画面から描き始める場合、塗り残しから白い色が見えると見る人に描きかけ感を与えてしまい、素人っぽさが出てしまいます。
下地に色が塗ってあると下の色が見えても味わいに見え、良い効果が出ることもあります。
統一感が出る
カラフルな配色の絵でも、下に一色で全面塗ってあったり、類似色で塗ってあることで、 画面にまとまりを作り統一感がでます。
色を効果的に見せる
下地に補色や反対色を塗っておくことで上から塗る 色を引き立てる 効果があります。
昔、ふらっと立ち寄ったギャラリーで雪景色の絵ばかりが並んでいたのですが、よく見ると有色下地に鮮やかなピンク色が塗ってありました。
よく見ないとピンクが使ってあるとは気づかないくらいですが、白や青みグレーの色を素敵に引き立てていました。
緑の有色下地は赤いモチーフの色味を生き生きと引き立てる効果があり、人物を描くときもよく使われる色です。
緑色の下地の上に描いた人物画です。
明暗、光や影の調子を作る
褐色系の絵の具で明暗を先に描いておいたり、 光の当たっているところに暖色を塗り、影の部分には寒色を塗っておく ことで、光の調子を出すことができます。
褐色で明暗を作った上から描いたことで、明暗のバランスを崩すことなく色がのっています。
有色下地の効果が分かりやすいように白基調に描きましたが、下地の色が優しかったので分かりづらくなってしまいました。
上から塗る色で明暗をつけなくても下地の色のイメージで光の向きが感じられるようになるはずです。
対比によってイメージを作る
有色下地に茶系の主張の弱い色や上に塗る色の同系色を使うなど、下の色と上の色の 対比が弱いと、柔らかく優しい色調の絵になります。
反対に原色を濃く塗ったり、補色対比になる色を塗っておくことで、 対比が強くなり、ダイナミックな印象になります。
グリザイユ
グリザイユは モノトーンで描いた上からグレーズやスカンブルで色を付ける技法です。
ブロックインに似た技法ですがブロックインは紙の白さを活かしてモノトーンを作るところ、グリザイユは絵の具の白も使って、キャンバスの白は塗り潰して描きます。
カマイユ
カマイユはグリザイユの一種です、
グリザイユが白と黒の絵の具を使って描くのに対してカマイユは バーントシェンナなど、褐色の色で明暗を描きます。
レオナルド・ダビンチの作品に描きかけのものがあり、カマイユで描いてあることがよく分かります。
グレーズ
グレーズは透明色を水で溶いて薄く塗り重ねる技法です。
グリザイユに色をつけるのもグレーズです。
1透明感を出す
2鮮やかさを出す
3視覚的に混色をする
4色味をたす
5明度、彩度の調整をする
1透明感 2鮮やかさ
グレーズをすることで色に透明感が出ます。
例えば赤い花を描くとします、明暗を作るのに赤に白を混ぜて明るい色を作ると、どうしても白く曇って鮮やかさが落ちます。
そこで、後から グレーズをすることを考えて少し明るめに花を描いておき、上から鮮やかな赤でグレーズをすることで、瑞々しい鮮やかな花を描くことができます。
3混色
水彩風のところでもお話ししましたが、パレットの上で混色するのと、重ね塗りで混色するのではニュアンスがちがいます。
どちらが良いとかはないので、作風や狙いによって使い分けます。
重ね塗りするときに上から塗る色の濃さを変えたり、色味をかえたりすることで、複雑な調子が作れます。4色味
グレーズで色味を足すことで、下に描いてある調子を崩すことなく色味が足せます。
例えば赤い花の影に少し青みが欲しいときに上から青をグレーズします。
人物の頬や唇の赤みを足したいときにもよく使われます。
5明度、彩度の調整
明るすぎたところ、鮮やかすぎたところにグレーズを重ねて 調子を抑えて調整する ことができます。
暗いところを明るくする、暗くて鈍い色を鮮やかにすることはできません。
スカンブル
グレーズが透明色を使うのに対してスカンブルは半透明色を薄めて使います。
半透明の色なので、下に塗ってある色を少し隠す感じになります。
風景画で霧がかった表現をするのに便利です。
スフマート
スフマートは 輪郭をぼかす技法 です。
決まったやり方があるものではありません。
輪郭部分を指でぼかしたり、ぼかし筆を使ってぼかす方法や、グレーズを何重にも重ねて背景に溶け込むようにする方法があります。スフマートは重ね塗りで下に塗ってある色と境目をぼかすので重ね塗りが前提です。
ドライブラシ
ドライブラシとは 水を使わずに、かすらせるように塗る技法です。
かすれてガサガサしたマチエールができて、かすれた隙間から下に塗ってある色が見えます。
スクラッチ
スクラッチは 絵の具が乾かないうちに絵の具を削り取る技法です。
削り取るのはペインティングナイフ、スクレーパー、爪楊枝などなんでもよいです。
削ったところに下に塗った色が見えます。油絵は乾くのが遅いのでやりやすい技法ですが、アクリル絵の具は乾くのが早いので手早くやる必要があります。
マチエール下地
マチエールとは絵肌のことです。
薄塗りで描けば平滑なマチエールになりますし、インパスト(厚塗り)で絵の具を盛り上げていけばゴツゴツのマチエールになります。
そのマチエールをあらかじめつけておく方法もあります。
絵の具でも作れますが、 ジェッソ、モデリングペースト、メディウム などで作れます。
リキテックスメディウムのセラミックスタッコで下地を使った参考作品です。
ザラザラしたセメントのようなマチエールです。
モデリングペーストで下地を使った参考作品です。
モデリングペーストは厚塗りで凹凸のあるマチエールが作れます。
まとめ
いかがでしたか?
アクリル絵の具の特徴を活かして重ね塗りすると複雑な表現も多彩な表現も可能になります。
まずは一つづつ試して描いてみてください。
その表現の違いや多彩さにまず驚かされると思います。
あなたの求める表現もみつかるかもしれません。
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