アクリル絵の具:人物の背景どうする?イラストにも応用可能な選び方

Screenshot

こんにちは♪

アクリル画家、絵画講師の初香です。

今回は人物画の背景をどう書くかと決めるかと言うテーマで、名画を見ながら解説していきたいと思います。

あなたは人物を描くとき背景はどう決めてますか?

私は昔は背景に何を描けばいいのか、どう処理していいのかわからずに、いつもなんとなく誤魔化して描いていました。

同じように悩んでいる人もいるのではないでしょうか?

吾輩も人物が背景に埋もれてしまったり、イメージが全然違うものになってしまう。
助手ネコ
助手ネコ

 

初香先生
初香先生
今回はそんな人のために、悩まなくてもどんな背景にするのかすぐ決めれるようになる考え方をお伝えするよ

きっと絵を描く前から背景のイメージが湧いて来るようになるでしょう。

 

モチーフ

名画を見ながらヒントをもらっていきましょう。

何を描くか

まずどんな背景があるのか見てみます。

ルノアールの作品3点

どれもルノアールの作品です。

《ブージヴァルのダンス》1883年 ピエール=オーギュスト・ルノアール
《ブージヴァルのダンス》1883年 ピエール=オーギュスト・ルノアール

このダンスの絵は背景は実際はもう少し遠くに描くはずの人々が少し近く描いてありますが、実際のその場の状況が描かれています。

人々の語らいや笑い声と、楽しげな音楽が聞こえてきそうで、臨場感が出ています。

これが背景が一色の壁であったら周りの賑やかさや音楽、リズムも空気感も無くなってしまうでしょう。

 

《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》1880年 ピエール=オーギュスト・
《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》1880年 ピエール=オーギュスト・ルノアール

こちらの少女の絵は葉の茂る前に座っている状況です。 葉っぱはかなり抑え気味に描いてあり、自然の空気感の残しつつ、背景の印象は抑えて人物に印象が集中するようになっています。 

《ジャンヌ・サマリーの肖像》1877年 ピエール=オーギュスト・ルノアール
《ジャンヌ・サマリーの肖像》1877年 ピエール=オーギュスト・ルノアール

こちらの絵は完全に背景がただの色面になっています。

 人物以外の情報は全て排除 して、ピンクの色で人物の愛らしさを表しています。

 

《マラーの死》1793年 ジャック=ルイ・ダヴィッド
《マラーの死》1793年 ジャック=ルイ・ダヴィッド

こちらはただの色面ですが、色をわずかに変化させることで壁のイメージになっています。

情報を排除しながら自然な空気感は残しています。

 

《うちわを持つ女》 1879年頃 ピエール=オーギュスト・ルノアール
《うちわを持つ女》 1879年頃 ピエール=オーギュスト・ルノアール

こちらはまたルノアールの作品です。

背景には花と壁紙?のストライプが描かれています。

少女漫画の背景に花がいっぱい散りばめてあることがありますが、そのようなイメージでしょうか。

 何かを意味しているというより華やかに装飾する効果になっています。 
《夢想》1897年 アルフォンス・ミュシャ
《夢想》1897年 アルフォンス・ミュシャ

ミュシャの背景は完全な装飾です。

人物自体も装飾の一部になったような表現にみえます。

ミュシャは画家と言うよりグラフィックデザイナーだったので、このような大胆な装飾化になったのかもしれません。

 

《ピアノの前の少女たち》1862年 ピエール=オーギュスト・ルノアール
《ピアノの前の少女たち》1862年 ピエール=オーギュスト・ルノアール

こちらはその場の状況を描いているようですが、その中で色彩の効果が狙ってあります。

全体にオレンジががったような色味の統一感ある印象ですが、その中でも手前の少女は目立つように明るい白のドレスに、 金髪の黄色とリボンの青で補色対比になっていて、ぱっと目に付くように描かれています。 

奥の少女は朱色のドレスで全体のオレンジ色のイメージに溶け込んでしまい目立たなくなってしまいそうですが、後ろのカーテンを緑色にしていることで、 朱色との補色対比で存在感が強められています。 

 

決め方

ここまで見てきて気付いたのではないでしょうか?

 人物をどう見せたいか、または絵自体をどう見せたいかによって背景を効果的に利用しています。 

なので、背景を決めるというより、絵自体を決めると言った方が正しいでしょう。

昔の私みたいに人物を描いてから背景をどうしようと悩むのではなく、絵を描き出す前の構想から、どんなことを主題に見せたいか、どんなイメージに見せたいのかを人物も背景もひっくるめて考えるのです。

では再び名画を参考に、背景でどんな効果が出せるのか、何故画家はその背景を選んでいるのか考えてみましょう。

 

構図

まずは構図が特徴的なものから見ていきましょう。

パース

「ムンクの叫び」の構図
《叫び》1893年 エドヴァルド・ムンク

遠近法のパースが奥の両端から手前に出てくるようになっています。

 2つの遠近法が人物のところで交差して、目線が人物に集中 するようになっています。

左側のパースの奥には2人の人物がいて、そちらにも目が流れて行くようになります。

遠近法を使いながらも、表現はとても平面的に描かれて、奥の不気味な赤い空が手前の方に迫ってきて人物を飲み込んでしまいそうな印象です。

「ブランコ」の構図
《ブランコ》1767年頃 ジャン・オノレ・フラゴナール

この絵には光のさす向きと、左下の男性の腕から右上の木の明暗の境で斜めの十字の構図があります。

 十字の重なる部分に人物がきて、その人物をぐるっと囲む形で全集中の構図で人物に視点を集中させています。 

斜めの線で動きも出ています。

配置

モデリアーニの背景に縦線のある作品3点

私はモデリアーニの背景には興味があります。

ほとんどの人物画の背景に直線が入ってきて、何のために直線を入れているのか気になるからです。

上の3枚の人物画には左に縦の線が入っています。

中心に人物を描くとどうしても変化の乏しい画面になりがちですが、 左に線を入れることで、人物が左に引っ張られて、画面の重心が左に偏ります。 

そうすることで、実際よりも右側の空間が広くスッキリ見て空間が広がって行くように見えます。

色面構成

モデリアーニ 背景に扉がある作品3点

モデリアーニの別のパターンでは扉で画面を区切っています。

左上が少し明るい色面になっていて、顔のところに目が行くようになっています。

モデリアーニの特徴として、大きくデフォルメされた人体とS字にくねるポーズです。

 そのSの形を強調するための直線でもあると思います。 

平面的な表現ということもあって、人物を描きながらも色面構成に重きを置いているようにもみえます。

 

色彩効果

類似配色

《真珠の女》1858年〜68年頃 カミーユ・コロー
《真珠の女》1858年〜68年頃 カミーユ・コロー

同じような色相で全体が描かれていて統一感をだしながら、色の明暗でコントラストをつけて人物を引き立てています。

《自画像》1889年 フィンセント・ファン・ゴッホ
《自画像》1889年 フィンセント・ファン・ゴッホ

ゴッホのこの自画像も全体的に青緑で描かれています。

背景のグリーンが顔の肌の中にも入り肌の色が服や背景にも入り、背景も人物も溶け合うようで統一感がある画面です。

唯一髪の毛とヒゲのオレンジ色で顔に存在感が出ています。

 

補色対比

《牛乳を注ぐ女》 1658~60年頃 ヨハネス・フェルメール
《牛乳を注ぐ女》 1658~60年頃 ヨハネス・フェルメール

フェルメールは青と黄色の補色を好んで使っています。

背景は落ち着いたモノトーンで描かれて、人物は黄色と青の補色対比で描かれて、落ち着いた雰囲気ながら華やかさがあります。

《包帯をしてパイプをくわえた自画像》1889年 フィンセント・ファン・ゴッホ
《包帯をしてパイプをくわえた自画像》1889年 フィンセント・ファン・ゴッホ

先程のゴッホの自画像と変わって、こちらの自画像は大胆に原色で色分けされています。

 赤と緑の補色対比で派手で力強い印象になっています。 

包帯の白と帽子の黒のコントラストも強いです。

 顔の周りが強い配色になっているので、顔の印象は弱くなっています。 

この絵は自分で耳を切り落とした後の作品なので、包帯の白を顔よりも印象付ける狙いがあるのでしょう。

 

明度対比

《白貂を抱く貴婦人》1489〜91年頃 レオナルド・ダビンチ
《白貂を抱く貴婦人》1489〜91年頃 レオナルド・ダビンチ

この時代に多い肖像画のタイプですが、背景を黒く塗り潰し、明るく人物を描き起こします。

明度を対比させ、人物の印象がとても強くでています。

 

《バラの女》1930年 マリー・ローランサン
《バラの女》1930年 マリー・ローランサン

マリー・ローランサンの作品はグレーの背景にグレーの肌色で描かれて、柔らかく優しい印象です。

服や小物には原色に違い色面が塗られて、グレーの優しい色味は埋もれてしまいそうですが、 顔の背景を濃いグレーで塗ってあるため肌とのコントラストで顔の印象がはっきり見えてきます。 

髪飾りのパールも明暗のコントラストで引き立てられていますが、パールは他の色面にはない細かな色面なので、面積のコントラストによっても強調させています。

 

《リーザー嬢の肖像》1917年 グスタフ・クリムト
《リーザー嬢の肖像》1917年 グスタフ・クリムト

こちらは上2作とは全く違って明度差彩度差はほとんどありません。

白黒で印刷したらコントラストの弱い調子になるということです。

そのため優しい調子になっているのですが、 色相を反対色にしているので、単調にならないようにしています。 

 

彩度対比

《フリッツア・リードラー》1906年 グスタフ・クリムト
《フリッツア・リードラー》1906年 グスタフ・クリムト

この作品は人物と椅子はモノトーンの調子で描かれて、背景は原色に近い強い色面で描かれて彩度の対比によって印象の強い作品になっています。

《仰臥裸婦》1931年 レオナール・フジタ(藤田嗣治)
《仰臥裸婦》1931年 レオナール・フジタ(藤田嗣治)

藤田嗣治は乳白色の色が特徴的な画家です。

乳白色のコントラストを抑えた柔らかいトーンで、優しく柔らかい統一感のある印象になっています。

 彩度の対比も明暗の対比も抑えた、優しく繊細なイメージです。 

 

色彩心理

《読書する娘》1769年 ジャン・オノレ・フラゴナール
《読書する娘》1769年 ジャン・オノレ・フラゴナール

手前の方はオレンジ色のトーンで描かれ、ドレスはオレンジに馴染む黄色で描かれています。

背景は暗い青みで描かれています。

 赤、オレンジ色、黄色などの暖色は前進色 とも言われ、 青、青緑、青紫などの寒色は後退色とも言われます。 

これは暖色は前に出て見えて、寒色は後ろに下がって見えるという色彩心理です。

この絵は人物を暖色で描かれ、背景を寒色にすることで、人物の印象が強く前へ出てきています。

 

他にも色々な色彩心理があります。

○暗い色は明るい色より重く見える

○暗い色は明るい色より小さく見える

○鮮やかな色はくすんだ色よりも前に出て見える

○類似色相は穏やかに見え、反対色相は強く派手に見える

などです。

色彩心理について細かく知りたい方は↓の記事で詳しく解説しているので是非見てください。

https://ekaki-soudan.com/color-psychology

 

テクスチャー

均一な画面

《風神雷神図屏風》17世紀始め 俵屋宗達
《風神雷神図屏風》17世紀始め 俵屋宗達
《ベートーヴェン・フリーズ》1901年 グスタフ・クリムト
《ベートーヴェン・フリーズ》1901年 グスタフ・クリムト

上の2作はどちらも平滑な色面で余白を活かして描かれています。

 

凹凸のあるマチエール

《自画像》1875年 ポール・セザンヌ
《自画像》1875年 ポール・セザンヌ

この背景は絵の具を分厚く乗せて画面の上でも絵の具が混ざり合いコテコテのマチエールです。

《宵》1948年 智内兄助
《宵》1948年 智内兄助

 

智内兄助作品

上の2作は現代の画家、智内兄助の作品です。

強くマチエールを付けた上から繊細で緻密な描写をしています。

 

まとめ

背景を決めるときは人物をどう見せたいか、どのような絵にしたいのか、制作前の段階で計画立て決めていきます。

絵の構成を考えるときにエスキースをするのがオススメです。

エスキースというのは、適当な紙に支持体の形の四角を描いて、簡単なラフスケッチで色々の構図を描いてみることです。

一発で構図を決めるよりも、色んなパターンを考えることで、より効果的な表現を見つけることができて、構図の勉強にもなります。

色々なパターンで制作して見てください。

あなたらしい見せ方も発見できるかもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です