こんにちは。アクリル画家の初香です。
あなたは小さな子供の頃から紙に絵を描き、学校の図工の授業でも、紙に絵を描くことが多かったのではないでしょうか?
日本人にとって、紙というのはとてもなじみが深い画材だと思います。
アクリル絵の具は、水溶性の絵の具なので、水彩絵の具と同じような使い方ができます。
なので、アクリル絵の具も紙に描くことができます。
一方、アクリル絵の具は乾くと耐水性になるという水彩絵の具とは異なる特徴があり、その分やりやすい技法もあれば、アクリル絵の具ではできないこともあります。
今回は、紙にアクリル絵の具で描いていくことをテーマにお話ししていきます。
アクリル絵の具に使う紙は
画用紙、ケント紙、水彩紙はどう違う
紙には色々な種類があります。
その中で、絵に使われる紙と言うと、水彩紙、画用紙、ケント紙です
どれも絵を描くときに使える紙ですが、それぞれ特徴が違うので目的に合わせて選ぶ必要があります。
では、どんな違いがあるのでしょうか。
画用紙と水彩紙の違い
日本人に1番なじみのある、絵を描く紙は画用紙ではないでしょうか?
画用紙のことを水彩紙と思っている人もいるのではないかと思いますが、画用紙と水彩紙は少し違います。
水彩紙は水を使うことを前提にして作られているので、画用紙よりも水を吸っても波打ちにくく、表面も毛羽立ちにくくなっています。
それに加え水の吸い込みのコントロールや強度、ドライブラシ、ウォッシュなど、水彩の技法に適するように作られているものです
値段も全く違います。
画用紙はとても安く買えるものですが、水彩紙は画用紙よりも高く値段もピンキリです。
ケント紙とは
ケント氏は目が詰まったつるつるした表面の紙です。
凹凸がないので、絵の具の含みや吸い込みが少なく、滲み、ぼかし、グラデーションは難しくなります。
そのため絵の具で描くよりは、ペンやインクに向いています。
表面が強く、消しゴムをかけても毛羽立ちにくいので、鉛筆画にも向いています。
絵の具の場合は、ガッシュでムラなく塗るポスターのような表現が向いています。
アクリル絵の具に向いた紙は
アクリル絵の具に合う紙は、作風によって使い分けるのが良いと思います。
水彩絵の具のように使うのであれば、やはり水彩紙が向いています。
ペンや鉛筆を主に使い、アクリル絵の具絵の具は少しだけの場合はケント紙が合うと思います。
初心者には画用紙がお勧めです。画用紙が1番安く買えるので、とにかくたくさん描き練習をするのにうってつけです。
紙の選び方
素材で選ぶ
紙の原料は主に、コットンパルプ、ウッドパルプが使われています。変わったところでは、竹パルプが使われているものもあります。
紙は材料によって特徴も変わってきます。
コットン100%の紙は強度が強く、保湿力が高いと言う特徴があります。
保湿力が高いので、ぼかしやにじみが美しく、技法の幅が広いものです。
ウッドパルプはウッドパルプ100%のものとウッドパルプに少量、コットンを混ぜてあるものもあります。
コットン100%と書いてないものはウッドパルプの方が多く使われているようです
ウッドパルプは定着が弱いため、修正がしやすいと言うメリットがありますが重ね塗りには不向きになります。
値段もコットンのものよりも安いので、修正もしやすいことから、初心者の練習に向いています。
紙肌で選ぶ
紙肌にはその繊維の詰まり具合や凹凸具合で分けられます。
・荒め(ラフ)
・中目(コールドプレス)
・細目(ホットプレス)
「荒目」は紙肌の凹凸が大きいものです。
凹凸が大きいのでドライブラシのかすれを生かしたダイナミックな表現ができます。
また、絵の具の溜まりが良く、乾くまでに時間がかかるので、筆跡が残りにくくグラデーションができます
色が良く、色に奥行きが出るのが特徴です。
「中目」は他の紙目より扱いやすく、にじみ、ぼかしグラデーションなどの表現がしやすく、均一に色を載せやすいため水彩初心者にもオススメのものです。
「細目」は乾きが早く扱いが難しいですが、繊細でシャープな表現ができ、細密な描写の表現に向いています。
メーカーによっては極細目や極荒目と言うものあります。
水彩紙は細目、荒目はマルマンの「ヴィフアール」
中目はミューズの「ホワイトワトソン」を使いました。
色で選ぶ
天然素材のパルプは少し黄色がかった色をしています。
漂白剤を使うことで、真っ白な紙ができます。
黄色がかった紙だと優しい温かみのある表現になります。
きらめく光を表現したい時は、真っ白な紙を選ぶと良いでしょう。
厚みで選ぶ
紙の厚さで選ぶこともあります。
薄口のものは波打ちやすく、厚口の物ほど波打ちづらいので、水をたっぷり使った表現をする場合、厚口のものを選ぶと良いでしょう。
紙の厚さは、1㎡あたり何gかで表示されます。
150グラム(薄口)から300グラム(厚口)のものが多いですが中には640グラムと言う極厚のものもあります。
綴じ方で選ぶ
水張りとは
綴じ方を話す前に水張りの説明をします。
紙に絵の具を塗ると、水を含んだ紙の部分が伸びて、表面がベコベコた波打って治らないことがありますよね。
画用紙に比べて水彩紙では、波打ちはしづらくなっていますが、それでも波打ちはします。
薄口の紙は特に波打ちしやすくなります。
その波打ちを防ぐために「水張り」をします。
水張りとは紙全体に一度水を含ませ紙が膨張して伸びてから、パネルに貼り付け乾燥させることで、ピンと強く張ることができます。
水を使って描いて、紙が伸びたとしても、伸びた状態で平らになるように貼ってあるので、波打つことはありません。
紙に絵の具で絵を描く場合は、この水張りは基本になります。
このことを頭に置きつつ、綴り方をお話ししていきましょう。
スケッチブック
スケッチブックはお馴染みですね。
針金のリングで閉じてあるので、バラバラにならずに持ち運びに便利です。
外でのスケッチや旅行先に持っていくのに使いやすいですね。
ただ乾く前に閉じてしまうと色うつりするので、しっかりと乾かすことが必要です。
水張りをしないので波打ちは避けられません。
パット
パットはメモ帳のように1辺だけのり付けされているものです。
スケッチブックのように持ち運びに便利な上、1枚ずつきれいに剥がせるので、作品として残すことができます。
水張りはしないので、波打ちは避けられません。
カット
一枚一枚バラバラにカットさせているものです。
サイズごとにまとめて袋詰めされているのが一般的です。
水張りをすること前提に記載のサイズより一回り大きくカットしてあるものもあります。
メーカーによって細目、中目、荒目がセットになっているものもあるので、色々試してみたい人にもオススメです。
ロール
ロールはカットされてない紙が巻かれて売られているものです。
自分で好きなサイズにカットして使うので、市販ではなかなか売っていない大きなサイズも自分でカットすることができます。
1ロールが結構な量になるので、自分の求める描き心地と違うともったいないので、最初はカットで買って試してみるのをお勧めします。
ブロック
ブロックは4辺全てが糊付けされているものです。
10枚くらいを重ねてあって、1番上の紙から描いていきます。
水張りをせずにそのまま使えるので、便利です。
4辺がのり付けされていることで、波打ちがとてもしづらくなっています。
しかし、全く波打ちがないわけではありません。
その方が波打ちの影響が少ないからです。
描き終わったらペーパーナイフなどで、1番上の紙だけ剥がします。
ボード
ボードとは、厚紙の表面に水彩紙が貼ってある板状のものです。
硬く板状になっているので、波打ちせずに描くことができるので、水張りなしですぐに描くことができます。
板状なので、立てて描けるのも特徴です。
特徴で選ぶ
紙は素材や漉き方、紙目などで、使い心地の違いが出てきますが、特に、大きく特徴付けるのが「サイジング」です。
「サイジング」とはコロイド物質を用いて水を弾くようにすることです。
その度合いを調節することで、絵の具の吸い込み具合や絵の具の動きをコントロールしたり、紙肌を強度を高くしたりするものです。
紙を漉くに混ぜて作ったり、漉き上がった紙の上から塗られていたりします。
水弾きの強さ
水弾きの効果が強いと絵の具が紙の奥に吸い込まれずに表面にとどまるので、色の発色が強くなります。
色が表面で動くので、にじみやぼかしなどコントロールがしやすい。
また、ムラは出やすくなります。
乾燥スピード
乾燥スピードが遅いと、ゆっくりと色をコントロールすることができます。
荒目のものの方が水分を溜めるので乾きが遅くなります。
作業スピードがゆっくりにできる分、乾燥待ちにも時間がかかります。
色の吸い込み
色の吸い込みが良いと色がしっかりと固定されます。
上から絵の具を塗っても、下の色を引っ張らずに濡れるので、重ね塗りに向いています。
色がしっかりと固定される分、やり直しができなくなります。
表面の強さ マスキングが使えるか
マスキングを使って描く人には、表面の強度が重要になってきます。
マスキングを剥がしたときに、紙ボロボロになってしまったり先に塗った色までも一緒に取れてしまうからです。
紙を見てもその特徴はわからない
上に上げたような特徴は、紙を見てもわかりません。
紙の説明の表記を見て判断するしかありません。
値段で選ぶ
水彩紙はピンからキリまで価格差がかなりあります。
コットン100%の高級水彩紙ならば、扱いやすく良いかもしれませんが、私の場合はあまり高級なものだと緊張で硬くなってしまうので、比較的お値打ちなホワイトワトソンのブロックを使っています。
その方が、のびのび描けて良いものが出来上がる気がします。
初心者ならば安い水彩紙でたくさん描いて腕を磨いていくのが良いと思います。
水張りの方法
紙をサイズより大きく切る
紙は端を折ったときにパネルの厚みの部分の途中までくるサイズでカットしておきます。
紙を水で濡らす
手早くたっぷり水を塗っていく。
綺麗なタオルに水を含ませ、真ん中から外側に向かって放射線状に、塗り残しの無いように塗る
手早く塗らないと水を吸い伸びたところと、まだ水を吸って無いところと時間差が出来てしまうため、仕上がりが綺麗に出来ないことがあります。
紙全体が充分に水を吸い、伸びきるまで待つ。
4辺の跡を付ける
紙が乾き始める前に手早く作業していきます。
乾いたタオルで中心から放射線状に空気を抜くイメージで端まで行き、端の折り目を付けます。
水張りテープを水で濡らす
水張りテープは切手のように片面に糊が付いています。
貼る辺の長さより少し長めにカットして貼ります。
先程紙を濡らした時のタオルでテープの手前を押さえて、さっとテープを引けば素早く水を塗ることができます
一辺づつ貼り付ける
パネルの厚み部分、画面から少し下に下がったところに水張りテープを貼ります。
乾いた綺麗なタオルで中心からから放射線状になるように空気を抜くイメージで縁まで撫でます。
縁に来たら紙が浮かないように注意しながら、パネルの厚み部分や裏側に水張りテープを巻き込む感じて貼り付ける。
(いつもは作業台から貼る部分をはみ出させて裏側まで貼っていますが、今回は下に箱を敷いて手を裏まで回せるようにしています)
角の処理をする
一辺を張るごとに角を折り込んで処理すると綺麗に仕上がります。
乾燥させる
4辺全て貼れたら充分に乾燥させて完成!
紙に描くときの技法
基本は水彩絵の具と同じ
基本的には水彩画と同じように描くことができますが、水彩絵の具と違いアクリル絵の具は乾燥すると耐水性になるという性質があるため、出来ない技法もあります。
アクリル絵の具だと出来ない技法
アクリル絵の具だと乾くと耐水性になる特徴から、「リフティング」が出来ません。
リフティングとは乾いた絵の具を水で溶かして浮かせて取る技法です。
修正する時にも使う技法ですが、アクリル絵の具ではできないので、アクリル絵の具の水彩風の描き方は修正が難しいというデメリットがあります。
逆に乾くと溶け出さないので重ね塗りがやりやすいというメリットがあります。
水彩紙に描いてみた
紙にアクリル絵の具で描くのならば、水彩風の描き方で描くのが良いと思います。
何故ならば、水彩風の絵でないのなら、キャンバスやパネルの方が断然描きやすく、わざわざ紙に描く必要が無いからです。
紙の白さを活かして描く
水彩といえば紙の白さを活かすことが1番の特徴です。
参考に水彩風に白を活かした描き方と、油絵のように層にして描きおこす描き方で描いてみました。
左の方が紙の白さを活かす描き方ですが、右のものより輝くような白には見えませんか?
日本人は油絵のような描きおこす描き方に馴染みが無くピンと来ない人も多いと思います。
描いている工程を見て理解してもらえたらと思います。
参考の工程
左側はモチーフの白木蓮を避けて背景の青を塗ります。
右側は最初に背景の青を塗っておきます。
(青がムラムラなのはご了承ください汗)
青の背景の上から不透明の絵の具を下の色を潰す感じでざっくり塗っていきます。
ざっくり塗った上から徐々に細かく描写して描き起こしていきます。
メーカー紹介
ミューズ
ミューズは日本で初めて本格的な水彩紙をつくり、画材用紙を専門に作っているメーカーです。
紙の種類も多いうえに、綴じ方も様々で、欲しいタイプのものがきっと見つかると思います。
私が使っている水彩紙はミューズの「ホワイトワトソン」です。
ホルベイン
ホルベインは明治から続く日本のメーカーで、初めはは文具からはじめ、あらゆる画材道具を製造しています。
紙に限らず、絵の具、筆、イーゼル、エプロンまで、絵を描くときに必要になるものをほぼ網羅しているとで、絵を描く時に使うもので揃わないものは無いと思います。
紙も種類が多く、綴じ方も様々あります。
自社製品だけでなく、有名外国メーカーのストラスモアやウォーターフォードの代理販売をしています。
キャンソン
キャンソンは1550年から続くフランスの老舗製紙メーカーです。
中でも「ミタント」はパステル画用の代名詞となっている紙で世界中で愛されています。
キャンソンも複数の紙質のものを販売しており、個性的な紙肌のものもあります。
640gという厚さがあるのも特徴です。
マルマン
マルマンと言えば、誰もがスケッチブックと聞いてイメージするオレンジ色と黒のデザインのあのメーカーです。
このお馴染みのスケッチブックは水彩紙でなく、画用紙です。
安い画用紙のメーカーかと思われるかもしれませんが、高品質な高級水彩紙も作っています。
中でも「アルシュ」は最高級水彩紙で、紙の長期保存規格ISO9706を満たしていて、抗カビ加工もされているという特徴もあります。
私もいつか「アルシュ」で気負わず描ける画家になりたいと思う、画家憧れの紙でもあります。
B4サイズ 20枚綴り 15400円
オリオン
オリオンは日本の画材用紙メーカーです。
代表商品「ワーグマン」などの自社製品の他、
ドイツのハーネミーネ社の代理販売もしています。
特筆したいのは「アクリルデネブ」というアクリル絵の具用に作られた紙があることです。
アクリル絵の具専用に作られた紙は私は他に聞いたことがありません。
クサカベ
クサカベというと、まず油絵の具をイメージします。
アクリル絵の具は作っていませんが、アッキーラという、水性アルキド樹脂を基材にした、油絵の具でも、アクリル絵の具でも、水彩絵の具でもない、独特の絵の具を出しているメーカーです。
クサカベでは紙は作っていませんが、
最も古く、最も優れた製紙技術を持っていると言われているイタリアの老舗メーカーの「ファブリアーノ社」や、
イギリスの名門「ラウニー社」の商品を代理販売しています。
まとめ
絵を描く紙には、水彩紙、ケント紙、画用紙とあります。
オススメは水彩紙ですが、水彩紙には数えて切れないほどの商品があり、それぞれ特徴も違います。
色々試してみて1番自分に向いている紙を見つけるのが良いと思いますが、それこそ全部の商品を試してみるのは現実的ではありません。
今回の記事を参考にして商品を絞り込んでから試してみることをオススメします。
あなたにピッタリの紙が見つかるといいですね!
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