こんにちは♪
アクリル画家、絵画講師の初香です。
アクリル絵の具は乾きの早い絵の具です。
乾きが早いことは多くのメリットもあり、デメリットもあります。
実際にどのくらいの時間で乾くのかは気になるところですよね。
デメリットも対処方法があるので、それを覚えれば、 メリットもデメリットも自分でコントロールすることができ、自在に操れるようになります。
私は大学では油絵専攻でした。
よくよく確認することなく油絵のファンデーションホワイトを下地に塗ったら、何日待っても、1週間以上待っても乾かない。
「本当にこれは乾くの???」と思うほどでした。
課題の提出に間に合わなくなるので無理やり描いた覚えがあります。
本当は1ヶ月以上おかなくてはいけないものです汗
逆に写生旅行に行った時です、アクリルで下塗りをしようと思ったのですが、あまりに霧深い日だったので、画面に水がついて、絵の具がダラダラと流れ落ちてきたこともありました。
そんな特殊な状況はさておき、 一般的にアクリル絵の具の乾燥時間はどれだけなのかお話ししていきましょう。
目次
絵の具の組成と乾く時間
まずは絵の具の仕組みを見てみましょう。
絵の具は顔料pigment(色の粉)と展色剤binder(顔料を画面に定着させるための接着剤の役割)が 練り合わされているもの です。
絵の具の違いは展色剤の違いです。
展色剤の性質がそのまま絵の具の性質になります。
アクリル絵の具は速乾性が大きな特徴です。
アクリル絵の具
アクリル樹脂は水溶性のものですが、一度乾燥すると耐水性になる性質があります。
水彩絵の具と同じように水分が蒸発することで乾きます。
一般的に
薄塗りで10分~30分程度
厚塗りで2~3時間程度
で乾くと言われています。
水分の蒸発で乾燥するので、室温や湿度によって乾燥スピードも左右されます。
助剤は界面活性剤、凍結安定剤、消泡剤、防腐剤が入っています。
水彩絵の具
アラビアゴムはアクリル樹脂と同じ水溶性ですが、 違うのは乾いても耐水性にならず、水がつけばまた溶けることです。
なので、雲を表現するのに一度塗った色に水を含ませて筆やティッシュで絵の具を拭き取って白くすることができます。
艶感を表現するのにもつかえますし、修正するのにこの技法を使うこともできます。
助剤は保湿剤や界面活性剤、防腐剤が入っています。
油絵の具
乾性油はリンシードオイルやポピーオイルが使われています。
油絵の乾燥は水性の絵の具とは仕組みが違い、 オイルが酸素を取り込み化学変化することで固まります。
色によって乾燥速度が違い1週間位の違いがあるものもあります。
油絵は水の代わりに油で溶くのですが、その時の乾性油や揮発油の種類や割合でも乾燥速度がかわります。
助剤は乾燥補助剤、粘性剤、防腐剤が入っています。
早く乾くメリット
作業スピードが早い
乾燥スピードが早いメリットはなんといっても制作スピードが早くなることです。
油絵の具は乾燥するのに数日~一週間はかかります。
一層塗ったら乾かし、二層塗ったら乾かし、何層にも重ねて描くので、とても時間がかかります。
もし、乾かないうちに油絵の具を重ねると、下の色と混ざって狙った色にならなかったり、色が濁ってしまったりします。
マチエールも引っ張って壊してしまうかもしれません。
その点、アクリル絵の具は薄塗りで10分から30分位、厚塗りで2~3時間で乾くので、 その日のうちに何層も塗り重ねることができます。
油絵で1カ月かかる絵がアクリルでは1日、2日でてきてしまうかもしれません。
その分沢山の枚数が描けて上達スピードも上がります。
バーニッシュが早く塗れる
バーニッシュとは完成後の絵に塗って絵を保護するもので、艶を出したりマットな質感にしたりもできます。先程お話しした乾燥時間は触って乾いたと感じ、上から絵の具を重ねても問題なくなる時間です。
完全乾燥はそれよりも長く72時間です。
バーニッシュを塗るのは3日経過して完全乾燥してから塗ります。
完全乾燥を待たずにバーニッシュを塗ると、ひび割れや剥離を起こすかもしれません。
この完全乾燥は油絵だと一年です!!
油絵は一年乾燥させてからタブローを塗ります。
1年と比べたら、3日過ぎれば塗れるって凄く早いですね。
油絵の制作スピードを上げるためにアクリル絵の具である程度描いておいて、上から油絵の具を重ねて描くこともできます。
この場合も完全乾燥の72時間を待ってから油絵の具を使い始めます。
アクリル絵の具の上に油絵の具で描くことはできますが、逆に油絵の具の上からアクリル絵の具で描くことはできません。油性のものの上に描くと絵の具が定着せず剥離してきます。
重ね塗りがしやすい
乾燥速度が早いとしっかり乾くのを待って絵の具を重ねることができます。
絵の具がしっかり乾いてないと後から塗った色と混ざって狙った色と違う色になってしまったり、色が濁ってしまったりします。
一度乾くと耐水性になるので重ね塗りする時に安心して塗れますね。
重ね塗りするメリット
しっかりと乾いた上から重ね塗りすると多くのメリットがあります。
○発色良く描くことができる。 ○色の調整がしやすい。 ○立体感が出せる。 ○色に深みが出せる。このように魅力的な効果があるなら上手く活かしたいですね。
早く乾くデメリット
グラデーション、ブレンディングがしにくい
グラデーションは色と色の境目をき馴染ませていって作ります。
なので一色塗って2色目を塗ってその境目を馴染ませるところまで、乾かない間にやってしまわなくてはいけません。
これが狭い面積ならば難しくはないと思いますが、背景など広い面になると難しいですね。
画面の上で絵の具を混ぜるブレンディングも乾かないうちにやらなければ行けないので、計画的に集中的にやらなくてはいけません。
このようなときには乾きを遅くするメディウムが便利です。
後で詳しくお話ししします。
リフティングができない
リフティングは水彩画の技法で、画面上で一度乾いた絵の具に 水を付けて溶かし、拭い取る技法 です。
アクリル絵の具は水溶性の絵の具で、絵の具を薄く溶いて使えば水彩画のように描くことができる画材です。
しかし乾くと耐水性になるので、一度乾くと水を付けても溶けないので、リフティングはできません。
パレットの絵の具も乾くのが早い
画面の上の絵の具が乾くのが早いということは、パレットの上の絵の具も当然早く乾きます。
パレット上に乾いた絵の具があると、ビニールのような被膜になります。それが絵の具に入ると綺麗に塗れません。
パレット上の絵の具の乾燥を遅くするには霧吹きで水をかけておくと良いです。
パレットについて描いた記事に乾燥を遅らせる方法も詳しく書いているので是非読んでみてください。
アクリル絵の具で使うパレットのおすすめ:洗わないでもOKなものも
道具のメンテナンスが大変
アクリル絵の具は一度乾くと強い被膜を作り、定着力もとても強いので道具に付いて固まると厄介です。
筆やプラスチックパレットで固まってしまったら、無理して取ると傷むので、結局ゴミ箱行きです。
筆は絵の具がついたまま出しておかず、水に付けて乾かないようにしましょう。使い終わったら丁寧に洗ってしまいます。
筆のメンテナンス方法の記事はこちらです。
アクリル絵の具がついた筆の洗い方:初心者の方にもわかりやすく解説
パレットはプラスチックパレットはアクリル絵の具に向かないので、使い捨てできるペーパーパレットや絵の具が落ちやすい陶器の絵の具皿を使うのが良いです。
パレットの記事で詳しく書いています。
アクリル絵の具で使うパレットのおすすめ:洗わないでもOKなものも
乾燥を早める、遅くする方法
ドライヤーを使う
アクリル絵の具は水分が蒸発すれば乾くので、 ドライヤーを使って乾かすことができます。
ドライヤーを使えば薄塗りならば数分もかからず乾かすことができます。
作業台の横にドライヤーを常に置いておいてもいいですね。
一つ気をつけなくてはいけないのは、熱で絵の具が変質するとひび割れを起こす可能性があります。
ドライヤーを使う時は冷風で使うか、熱風で使う場合は30センチ以上離したうえで、一箇所に連続して当てないようにしてください。
ドライヤーの風で絵の具が飛び散らないようにも注意。
私は布に絵の具を染み込ませるように塗っているので、水の加減であっという間にに滲みが広がっていくことがあります。
そんな時はドライヤーで完全に乾くまでしなくてもそれ以上絵の具が広がらなくなるまで乾かしたりします。
私の制作の傍にはドライヤーが欠かせません。
メディウムを使う
アクリル絵の具の乾燥を遅らせたいときは「スロードライメディウム」や「リターディングメディウム」を使います。
スロードライメディウムは盛り上げ用の遅乾剤で、リターディングメディウムは厚塗り用の遅乾ざいです。
検証してみた
一般的に言われるのは
乾く時間は薄塗りで10分〜30分(検証結果1分で乾きましたとが。。。)
厚塗りで1時間〜2時間
完全乾燥に72時間
これだけ覚えておけば問題ないと思います。
自分で細かく調べてまも、環境や条件を一定にできないので、あまり意味がないのですが、
検証したがりなのか、興味があったので実際に時間を測ってみました。
それほど細かな情報が必要になることもないので、ここからは読み飛ばしてもらって全く問題ありません。
厚さで比較
室温 28℃ 湿度 68%
水を使わずにナイフで薄く塗りました。
1分ほどで乾きました。
少し厚くなったところは3分でした。
一般的に10分〜20分と言われるので、今回ずいぶん早く乾きました。あまりに早く乾きすぎで色ごとの違いはわかりませんでした。
薄いと比較が難しかったこともあり、もっと厚いものを比較します。
厚みで検証するために、厚塗りを牛乳パックの厚さ、ペインティングナイフで盛り上げを薄手の段ボール(2㎜)の厚さに想定しました。
厚塗りは2時間40分 盛り上げは約11時間でした。アクリル絵の具は水分の蒸発で乾燥するので、乾燥すると体積が減ります。
盛り上げの体積が明らかに減ったように見えます。
支持体で比較
支持体はマルマンスケッチブックの画用紙と、セリアのキャンバスで比較しました。
室温 28℃ 湿度 68%
紙とキャンバスどちらも1時間28分、だいたい1時間半で乾きました。紙の方が水を吸い取るので早く乾くかと思いましたが、若干早かったくらいでほぼ同じでした。
塗る前に紙にたっぷり水を含ませておくと、逆に保湿になって乾きは遅くなります。
水彩紙のような水含みの良い紙はその分遅くなると思います。
キャンバスは何故か乾いた後も擦ると絵の具の色が広がりました。
何故だかわかりません汗
色違いで比較
油絵絵では色(顔料)の違いで一週間近く違うものもあり、絵のここは乾いてるけど、ここは乾いてないなどあり絵を描くのに苦労したことがありましたが、アクリル絵の具も色で乾燥スピードに違いはあるのでしょうか?
厚塗りを想定した牛乳パックの厚みで比べました。
色はピュアレッド(不透明)、イエローミディアムアゾ(透明)ウルトラマンブルー(半透明)を使いました。室温 28℃ 湿度 68%
ピュアレッド 2時間13分
イエローミディアムアゾ 2時間
ウルトラマンブルー 1時間12分
ピュアレッドとイエローミディアムアゾが約2時間に対して、 ウルトラマンブルーは1時間ちょっとで明らかに早かったです。
一般的に厚塗りは1時間から2時間と言われるのと同じような結果になりました。
透明、半透明、不透明で速さが違うのではないかと考えたのですが、関係なさそうです。
メーカーで比較
室温 28℃ 湿度 61%
ゴールデン オープンは特に乾燥が遅いことを謳った商品です。
どのくらい遅いのかとても興味のあるところです。
ゴールデンオープン以外の、 ホルベイン、U-35、リキテックスは1時間40分で、どれもほとんど同じでした。
ゴールデンオープンは約24時間かかりました。
油絵の乾きの早いものとほぼ同じです。
メディウムで比較
スロードライメディウムは遅乾盛り上げメディウムです。
絵の具に混ぜる量に制限はなく、 乾くのを40%ほど延ばします。
リターディングメディウムは厚塗り用遅乾剤です。
絵の具に混ぜる量は20%程度までです。どのくらい遅くなるかは記載がありませんでした。
スロードライメディウムは混ぜる量に制限はありませんが、条件を同じにするためリターディングメディウムと同じ目分量で20%にします。
リターディングメディウムは約20%混ぜました。
室温 28℃ 湿度 63%
何も混ぜていないノーマル 3時間 リターディングメディウム 4時間30分 スロードライメディウム 4時間30分ノーマルとメディウムと1時間半の時間差はありますが、表面に被膜が張ったのは同じくらいの速さで、内部まで乾くのに変化がありました。
リターディングメディウムとスロードライメディウムにほとんど差はありませんでした。
スロードライメディウムを倍の40%ほどに増やしてみました。
室温 27℃ 湿度 70%
ノーマル 3時間 リターディングメディウム 3時間30分 スロードライメディウム 4時間やはり分量を多く入れるほど遅くなりました。
まとめ
アクリル絵の具は乾燥時間が早く、それによって、多くのメリットもデメリットもありますが、ドライヤーで乾くのを早めたり、メディウムを使って乾きを遅くしたり、コントロールすることができます。
コントロールできるようになったら、この乾燥スピードはメリットばかりになります。
室温や湿度によって乾燥スピードが変わります。
一般的に言われる時間と今回私が試してみたものにも、同じような結果が出たのもあり、異なった結果になったものもありました。
日が違ったり、天気が違ったり、朝なのか、夜なのかでも違いがありました。
なので、目安はあくまでも目安と捉えておくほうが良いでしょう。
しかし、そんなときも、コントロールでなんとかできます。
あなたも速乾性のメリットを活かして、どんどん描いていきましょう♪
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